3D 全盛の今こそ知りたい:2D Canvas ベンチマークが重要であり続ける理由

最終更新日: 2025-10-16 · Performance Team 著 · 読了目安 10 分

写実的な 3D ゲームや複雑な GPU アーキテクチャが注目を集める時代、2D Canvas はつい脇役として扱われがちです。ハイパフォーマンスグラフィックスと聞くと、3D Mandelbulb ベンチマークのようなシェーダー負荷の高いワークロードを思い浮かべるでしょう。しかし、高速かつ効率的に 2D グラフィックスを描画する能力は、モダンな Web 体験を支える要石です。そこで私たちは、新しいライトウェイト GPU ベンチマークを通じて、この重要な領域にスポットライトを当てることにしました。

目に見えない仕事人:2D Canvas の性能が効く場面

ベンチマークの仕組みを掘り下げる前に、高スループットな 2D レンダリングがどこで重要になるのかを整理しましょう。HTML5 の<canvas> 要素は、JavaScript で動的に描画できるキャンバスを提供します。これは私たちが日常的に使う多彩なアプリケーションを支えています。オンライン写真編集ツールはフィルターや変形処理をリアルタイムで適用し、コラボホワイトボードは複数ユーザーのストロークを同時に描画します。D3.js や Chart.js のような可視化ライブラリは、キャンバスを用いて何千ものポイントや棒グラフ、折れ線を描き、インタラクティブなダッシュボードを実現します。シンプルなブラウザーゲームでさえ、描画パイプラインの大部分を Canvas に頼っています。これらすべての体験は、ブラウザーが膨大な 2D 描画コマンドを途切れなく処理できるかにかかっています。まさにそこを測るのが、今回の 2D Canvas パフォーマンステストなのです。


何を測っているのか?舞台裏をのぞく

3D Mandelbulb ベンチマークが GPU のシェーダーコアにおける純粋な数値計算能力を測るのに対し、2D ランドスケープベンチマークはグラフィックスパイプラインの別の重要な部分を評価します。ここで試されるのは「速度」と「効率」です。

フィルレート、コンポジット、そして CPU と GPU の二重奏

このテストの核心は、フィルレート――GPU がどれだけ速くピクセルを塗りつぶせるか――とコンポジット――複数の半透明キャンバスを重ね合わせる処理――です。風景は空や山、木、雲など複数のキャンバスをスタックして構成され、ブラウザーはそれらを毎秒 60 回ブレンドします。この過程で GPU のメモリ帯域や、ブラウザーのコンポジタエンジンの効率が試されます。また、CPU と GPU のパイプラインも浮き彫りになります。CPU は JavaScript でシミュレーションロジックを処理し、描画コマンドを GPU に送り込みます。コマンド数が増えるほどドライバー階層が飽和し、GPU が本来の力を発揮できなくなることもあります。このベンチマークは、ピクセル塗りつぶし速度だけでなく、CPU から最終的な合成画像までの一連の流れを総合的に測るのです。

ノイズが描き出す自然:手続き型生成の魅力

ランドスケープはすべてアルゴリズムで描かれています。山の稜線や雲の形はパーリンノイズで生成され、木々の配置は決定論的な乱数生成でシード値から再現できます。つまり、同じシードならいつでも同じ景観が現れ、ベンチマークは完全に再現可能です。手続き型生成はアートと科学の交差点であり、テクスチャファイルを用いずとも豊かなシーンを構築できることを証明しています。

このアプローチはベンチマークにも好都合です。入力が一定なら出力も決定論的で、結果の差分は純粋にハードウェアやブラウザースタックの違いに起因します。ランダム性はシードで制御されているため、チームメイトと同じ値を入力すればまったく同じ状況を再現できます。

数値が語ること:ベンチマークの読み解き方

テストでは平均 FPS とフレーム時間を中心に評価します。高い FPS はレスポンスの良さを示し、フレーム時間は安定性を可視化します。パララックスを生む複数キャンバスや、動き続ける天候エフェクトにより、ブラウザーは膨大な描画命令を処理します。ここでフレーム時間の揺れが大きい場合、CPU のスレッドスケジューリングや GPU ドライバーのコンポジット処理がボトルネックになっている可能性があります。逆に安定していれば、UI アニメーションやダッシュボードが滑らかに動作する期待値が高いと言えます。

3D ワークロードとの補完関係

ボリュームシェーダーベンチマーク の 3D ベンチマークは、レイトレースに近い重いワークロードで GPU の数値計算能力を測定します。一方 2D ベンチマークは UI やデータ可視化など、日常的な Web 体験で頻繁に現れる負荷を再現します。両者をセットで実行すれば、ボリュームレンダリングから 2D アニメーションまで、プロダクトが直面するさまざまなシナリオを俯瞰できます。3D で高得点でも 2D が伸びないケース、あるいはその逆のケースを見つけて対策するためにも、両方の視点が欠かせません。

チームでの活用方法

2D ベンチマークの結果は、デザインやフロントエンドのチームでもすぐに役立ちます。ブラウザーごとに共有リンクをまとめたスプレッドシートを用意し、 FPS / フレーム時間 / 使用 GPU を記録しておきましょう。プロダクトデザイナーがアニメーションの滑らかさを評価したいとき、同じリンクを開けば状況を再現できます。クラウドワークステーションを評価する際も、3D ベンチマークだけでは見えなかった UI の遅延が浮き彫りになります。

また、チーム内で共有するドキュメントにトラブルシューティングのヒントをまとめておけば、パフォーマンス低下を見つけた際もすぐに対処できます。例えば「CPU が高止まりしていたらバックグラウンドタスクを停止する」「フレーム時間が振動していたらフォールバック解像度を試す」といった知識を積み重ねましょう。

実際のワークロードにどう生かすか

ベンチマークで把握した fps / フレーム時間を、プロジェクトの設計指針に落とし込みます。例えば 2D ベンチマークで 10 ms 程度のフレーム時間を達成できていれば、複雑なダッシュボードでも 60 FPS を目指せる目安になります。逆に 18 ms 付近で揺れているなら、移動量の大きいアニメーションを控える判断材料になるでしょう。ハードウェアの更新を検討する際にも、「この GPU に変えると 2D ベンチマークの平均 FPS がどれほど改善するか」という根拠を提示できます。

スナップショットで差分を可視化する

ライトウェイト GPU ベンチマークにはスナップショット機能があります。プリセットと時刻(昼・夜)を揃えて撮影すれば、ブラウザーや GPU の違いによる描画の揺らぎを視覚的に比較できます。モーションに注目したい場合は動画キャプチャを組み合わせ、フレーム時間と体感の相関を確認すると良いでしょう。

まとめ:2D Canvas ベンチマークが切り開く洞察

2D Canvas の性能は、Web 体験の土台を支える見えない仕事人です。ボリュームシェーダーベンチマーク のライトウェイト GPU ベンチマークは、その重要性を数値として示してくれます。3D ベンチマークと併用すれば、GPU がこなすべきワークロードの全景が見え、ブラウザーやドライバー、ハードウェアの選定に自信を持って臨めます。次の企画やリリースに踏み出す前に、ぜひ 2D Canvas のスコアもチェックしておきましょう。

昼の 2D ランドスケープ軽量 GPU ベンチマーク。生成された山々や雲、木々が並ぶ風景。
空のグラデーションから一本一本の木々まで、シーン全体が 2D ランドスケープ軽量 GPU ベンチマークで生成されています。